三輪舎は五周年を迎えました。

くだらない毎日のために

5年前の今日、三輪舎は産声をあげた。株式会社だ、独立開業だ、と少し気張ってしまって、自宅とは別に事務所を構えた。おなじ横浜市だが、自宅のある港北区のお隣の神奈川区のマンション。といっても六畳一間のぼろぼろのワンルームで、神奈川大学の学生が安い家賃を求めて入居するおんぼろマンションだった。通勤に加えて子どもの保育園への送迎が重なり、たちまち面倒になって、結局設立4ヶ月で自宅のマンションに登記し直した。ほどなくそのマンションビルは老朽化のために壊されてしまった。

開業祝いに両親が何かを贈ってくれるという。ありがたい、何がいいかなぁと思って、設立前に夏葉社の島田さんを訪ねたとき、ワンルームの部屋に大きな観葉植物があったのを思い出した。夏葉社にあやかりたいと思ったのと、三輪舎の事務所が殺風景だったこともあって、観葉植物を所望した。観葉植物といってもいろいろある。例えばポトスのようにあまりに成長が早くてどんどん増える植物は三輪舎っぽくないなと思った。もっと地味でゆっくり成長するのがいい。カタログを見ていると「エバーフレッシュ」という銘柄が目に入った。いつまでもフレッシュ、それがいいと思ったので、両親に伝えた。届いたのは、けっこう大きいエバーフレッシュだった。これ以上成長して大きくなってもらっても困るなぁと思いつつ、取説のとおりに水をあげた(つもりだった)。葉は何度か落ちては復活したが、ほどなく、根腐れが原因で枯れ落ちてしまった(お父さん、お母さん、ごめんなさい)。

 

 

開業当初のことで悔やむべきことはいくらでもある。事務所の開設のこと(最初から自宅でよかった)、資金のこと(ちゃんと貯めておけばよかった)、設立のタイミング(出版計画ゼロの状態で設立してしまった)。あまり固定概念に囚われるタイプでもないけれど、会社ってこうだよね、こういうことするよねとか、何かにあやかろうとか、その頃はけっこう囚われていた。すべてが初めてのことなので仕方がないが、そういうことは、ぼくがやろうとしていることにとって、ほとんど意味はなかった。そのことにすぐに気づくことができたのは大きかった。それよりも、朝、息子(いま5歳)と娘(最近4歳)が元気に登園するのを見届けて、洗濯物をほして、夕方になったら献立を考えながら買い物をして、家族を迎えに行って、栄養はあるけど色気ない食事をつくり、翌朝はパンが焼ける匂いで家族が起きられるようにセットして、でも全然寝ようとしない家族のことに苛立ちながら、くだらない毎日を過ごすことのほうに、よっぽど意味がある。つよくそう思う。

やきもち焼きの本づくり

昨年の夏に刊行した『本を贈る』は順調に版を重ねて、2月の上旬には三刷を刊行する。すごくいい本だ、ってたくさん褒められてとてもうれしい。でも、一方で他の版元さんの本がたくさん版を重ねている。おそらく2万部は売ってそうだなぁ、いいなぁと思う。「量」はとても大切だ。量がなければ、この事業は続けていられない。それと、ときどき、三輪舎に社員がいたらなと思うことがある。それこそ『本を贈る』でお世話になった朝日出版社の橋本さんみたいなひとがいたら、もっとたくさんのひとに三輪舎の本が届くだろう。タラブックスのアルムガムみたいな敏腕マネージャーがいれば、自分は純粋に本の中身のことだけを考えていられる。もっとたくさんの種類の本をつくることができるし、たくさんの本屋さんに三輪舎の本を置いてもらうこともできる。

でも、さっき書いたように、ぼくのくだらない毎日のなかに、アルムガムや橋本さんみたいなひとが“社員”として参加するようなかたちはイメージしにくい。というか、先方にとってもイヤだろう。誰かを雇用するなら、ぼくが苦手な「組織」にならないといけない。それに、それらしい事業所を開設して、毎日の暮らしから仕事を切り離さないといけない。そうしないといけない日が来るのかもしれないけど、いまのところ望んでいない。

ひとりで会社をやっていて大変じゃないですか、寂しくないですか、と聞かれる(ことは実際、あまりない。そう聞かれることをしばしば想像するのだ)。

上に書いたように、もっと売上を伸ばしたいと願望を抱いたりすることもあるけど、雇用すれば楽になるって問題じゃない。他人に給料を払うことができる経営者はすごいと思う。

 

 

そして、社員がいなくて寂しいと思ったことはない。

『本を贈る』で表現したように、三輪舎の著者になってくれる皆さんは、文章を書いてくれるだけでなく、ともにつくって、ともに売ってくれるパートナーだ。上に名前を出した朝日出版社の橋本亮二さん、加藤製本の笠井瑠美子さん、藤原印刷の藤原隆充さん(営業の章次さんも)、夏葉社の島田潤一郎さん、ツバメ出版流通の川人寧幸さん、BOOK TRUCKの三田くん、軽やかな久禮亮太さん、校正者以上の存在・牟田都子さん。そして、ぼくがとても私淑する若松英輔さん。矢萩多聞さんはいまの三輪舎の大きな部分に深く関わっているし、家族ぐるみで付き合ってくれる。『つなみ』の翻訳者、スラニー京子さん。『赤ちゃんにきびしい国』の著者でコピーライターの境治さんには最初の書籍の著者になってくださって、次の扉を開いてくださった。『父親が子どもとがっつり遊べる時期はそう何年もない』の著者のオトン布施太朗さんにはいろいろな面で影響を受けた。『未来住まい方会議』をきっかけに働くように遊んでくれるYADOKARIのさわださんやウエスギさんとか。本づくりではなくて茨城県の事業を通じて知り合った皆さん、例えば県庁の岩田さんとか。茨城で一緒になって、『つなみ』の制作風景を撮るために同行してくれた一昨年来の友人で切磋琢磨している山根さんの存在も大きい。水戸の写真家、松本美枝子さん、さいきんご無沙汰だけどまたいつか企画したい「本との土曜日」のせつこさんと橋口さん。そして、妻と息子と娘。保育園の保育士さん、おなじマンションのみなさん(本間さんとか)。まだまだ書ききれない。

三輪舎が“ひとり”じゃないのは皆さんのおかげです。本当に助かっています。ときに他の会社にやきもちを焼きながらも、この次の5年間もおなじスタイルでやっています。

 

最後に、もうすぐ刊行する本の宣伝です。

『ロンドン・ジャングルブック』(バッジュ・シャーム/ギータ・ヴォルフ/シリシュ・ラオ)を刊行します。タラブックスにとって記念碑的な本 The London Jungle Book の邦訳です。『夜の木』『世界のはじまり』で知られる、ゴンド画のアーティスト、バッジュ・シャームが、ロンドンのレストランの壁に描画する仕事のためにはじめて故郷を離れ、ロンドンで見聞きしたことを描いた旅行記です。『つなみ』に引き続き、スラニー京子さん訳、矢萩多聞さんデザイン。

暖かくなったころにお披露目できると思います。

引き続き、三輪舎をよろしくおねがいします。