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若松英輔「眠れる一冊の本」より

 

 

 

本は工業的に生産され、消費されている。本は確かに商品だが、宛先のある「贈りもの」でもある。「贈る」ように本をつくり、本を届ける10人それぞれの手による珠玉の小論集。

 

抄録

 

 本の記憶はおぼろげだ。

 ぼくは著者が伝えたいことや、表現したいこととは違う、物語のディテールや、なにげない言葉ばかりを覚えている。

 友人を思い出させる登場人物。自分が嫌いだったひとを連想させるセリフ。まったく理解できなかったからこそ、いびつにそのまま記憶されている述懐。不思議なシーン。いくつもの地名。抽象的な言葉。

 ぼくはこれらを思い返すたびに、本とは、なにかを伝えるためのツールなのだろうか、と思う。

 著者は果たして、一冊の本をとおして、読者になんらかのメッセージを伝えたかったのだろうか。

 ぼくは、息子が絵本の片隅に小さな猫を見つけるように、その一冊の本のなかに、自分の好きなものを見つけようとしていただけではないだろうか。

島田潤一郎「本は読者のもの」

 

 

 小豆島でタラブックスのイベントを開催したとき、「女神の布」の映像をみんなで見た。会が終わった後、一人の女性がすすっとやってきて、

「わたし、この本が欲しいです。買います」

 と言った。けして安くはない本なので、どんなお金持ちかとおもったら、彼女は夫婦二人で、島のはしっこに暮らす塩屋さんだった。元々は岐阜に暮らしていたが、旦那さんの身体の調子が悪く、自然豊かな小豆島に引っ越して、まったく経験のない塩づくりを一から独学ではじめたそうだ。目の前の浜から海水をくんで、日がな釜に薪をくべ、なにからなにまで手づくりで塩をつくる。ちいさな暮らしの実践者だ。

「今日から、わが家に女神さまをお迎えできる。それがうれしいです」

 大事そうに本を抱えて家に帰る彼女の後ろ姿をみて、インドと小豆島が、見えないへその緒のようなもので、ピンとつながったように見えた。そこに集った人たちがまるごと調和のとれた物語のなかにいた。

 ジャグデーシュの言葉の「女神」の部分を、本、作者、読者、あるいは人、物語、宇宙という単語に置き換えてもいい。

 たった一冊のちいさな本を通して、ぼくらは他者を想い、つながることができる。そこには贈るも贈られるもない。作り手も受け手も同じ地平に立って、この美しい世界を一緒に見つめられる。

矢萩多聞「女神は見ている」

 

 

 ゲラを「読む」とはいいますが、この仕事をしていると、紙の上の文字を目で追いかけながら、その実ほんとうに読もうとしているのは、著者の中にあるまだ形になっていないことば、ことば以前のことばであるような気もします。

 著者の頭の中で濃いのように渦を巻き、うごめいている不定形のものがペン先(キーボード)を伝って紙(ディスプレイ)に流れ出すときにこぼれ落ちてしまうものがある。いびつな形のままに固まってしまうものがある。「ほんとうはこう書きたかった」という形は著者の頭の中にたしかにあるはずなのに、ゲラがそれに追いついていないように見える。そんなときにどうすれば著者の頭の中にある形のことばに近づけられるのかと、想像力をふりしぼるのが校正なのではないか。その行為は「読む」というよりも、まだ形になっていないことばに「耳をすます」というほうが近い気がするのです。

牟田都子「縁の下で」

 

 

 本はどこか一部に瑕疵があると、ほかのどこも悪くなくても価値が損なわれていきます。それは前の走者で区間賞を出しても、後ろの走者が遅ければ勝負に勝てない駅伝と似ています。

 駅伝において各区間の走者に明確な役割があるのと同様に、印刷会社に求められる役割も大きいと思っています。それまでパソコンの中にあるデータという無形のものが、印刷されてはじめてモノに成ります。数多くの人が温め続けてきたことが、ここで初めてかたちになります。

藤原隆充「心刷」

 

 製造現場の人間が皆、出版事情に詳しくて、用紙に愛情を持っていて、慈しむように本を積んでいる—という理想風景を読者の皆さんは期待されるかもしれないけれど、本などとるに足らないものなのだと、何も特別なものではないのだと、そういう態度で本をつくり続け、そして買ってもらったほうがいいんじゃないか。本に興味のないひとも現場にはたくさん混ざっていて、でもそれぞれに仕事をきちんと果たし、俺の仕事は酒を飲むためにある!とかいって、仕事を続けられる。それはこれからは贅沢な考え方になってしまうのかもしれないけれど、本をつくったり売ったりすることが、世の中の数ある仕事のなかで、普通に誰でもが選べる職種であり続けてほしい。そうあることが、買うひとをも選ばないことに繫がっている気がするし、そうでなければ、子どもの頃の私に、本は届かなかったと思うのだ。

笠井瑠美子「本は特別なものじゃない」

 

 取次として働いていると、自分の読書体験がいかにちっぽけなものかがわかる。例えば鈴木書店時代、大学生協の担当をしながら日々、教員や研究者からと思われる膨大な数の客注品を調達しながら、いかに自分の知らない本があるかということを思い知らされたものだった。また、これまでを通して、いろいろな書店での棚構成やブックフェアなどでも書店員たちの選書のセンスに舌を巻くことは少なくなかった。書店員や出版社の営業、編集者、著者たちとの交流からも本についてたくさんの教えを受けてきたし、刺激を受けてきた。すでに書いてきたとおり、たくさんの人たちに助けられてきた。本の世界におけるそのような無償の〝贈りもの〟はずいぶんたくさん受け取ってきた。

川人寧幸「気楽な裏方仕事」

 

 カッターナイフを正確に操り、機械に勝るとも劣らぬクオリティで一枚一枚仕上げていきます。本の内容をコメントやデザインで表現し、設置先のお店の書棚を思い浮かべながら少しずつサイズを変えていきます。これはふだん、売り手と作り手の両者に接している営業ならではの職人芸です。

 一点一点の本を丁寧に届けていくことが営業の仕事。ややもすると右から左へと効率的にモノや情報を流すのがよしとされる時代にこそ、自分の手を動かして作り上げていく感覚は常に持ち合わせていたいのです。

橋本亮二「出版社の営業職であること」

 

 ぼくが言いたいのは、それだけ膨大な数のお客さんが、書店の売場を歩き、それぞれの視点で何冊かの本を選び、一冊一冊の本が発するメッセージとは別の、お客さん自身の小さな物語がぼくの手元にあるということです。お客さんは、何も考えず、欲しい本をいくつか買っただけかもしれません。でも、意識的であろうが無意識的であろうが、ぼくはそれらの物語にいつも心を動かされます。そして、ぼくという書店員を媒介にして、その物語を品揃えという形で再現して、他のお客さんに伝えることができます。

久禮亮太「読者からの贈りもの」

 

 ブックトラックを始めるまでは、僕も含めた本好きに好まれるような、いわゆる「いい本」をしっかり確保することに、とにかく力を注いでいた時期があった。本屋としてそれはそれでもちろん重要なのだけど、移動式本屋というスタイルにたどり着いてからは、何を仕入れるかと同時に、仕入れた本を誰にどうやって届けるかを考えることに時間を割くようになっていった。誰かにとってはさほど価値を感じられない本でも、別の誰かにとってはたまらなく魅力的に感じられる。平たくいうと、「いい本」「いい品揃え」なんて人それぞれだ。茅ヶ崎のビーチを散歩しているおじさんには一〇年前に出た「SWITCH」のサザンオールスターズ特集、古着のマーケットに来ているイギリス古着好きにはニック・ナイトの『Skinhead』、公園に遊びに来ている母娘には『365日のベッドタイム・ストーリー』や『アンパンマン』が「いい本」なのだ。

三田修平「移動する本屋」

 

 記された言葉のすべてを理解できなくても、ある熱と共にそれを受け容れることで、その出会いが、人生の出来事へ変じていく一群の言葉がある。それは自分で書いた言葉を自分で読むときだ。

 書くとは、思ったことを言葉にすることではない。そのとき私たちはメモしているに過ぎない。真の意味で書くとは、記された言葉に導かれて、未知なる自分に出会うことにほかならない。

若松英輔「眠れる一冊の本」

 

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書誌情報

  • 書名  本を贈る
  • 著者  若松 英輔 / 島田 潤一郎 / 牟田 都子 / 矢萩 多聞 / 橋本 亮二 / 笠井 瑠美子 / 川人 寧幸 / 藤原 隆充 / 三田 修平 / 久禮 亮太
  • 刊行日  2018年9月10日
     
  • 価格  1800円+税
  • ISBN  9784990811631 C0095
  • 判型  四六判 / 上製 / 角背 / 304ページ

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2019.10. 4更新

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