本と本屋のローカリティ/水戸芸術館での座談会をふりかえって。

 一昨日水戸芸術館で開催したイベントのことが頭から離れない。そもそも事前に予定していた企画ではなく、つい数週間前に提案して突然実現したもので、告知はたった3週間。当然ネットでの告知がメインだったわけだけど、なんと3-40人の方がいらしてくださった。遠方からも、朝日出版社の橋本さん、横浜旭区からは迫さん、他にもあちこちから来てくれた。

 

 深く話をしたかったのは、本のしごとのローカリティ。ぼくは本づくりにしても、本屋にしても、意識せずともローカリティがついてまわると思っている。逆に、本づくりにおいては(商業出版だからなのか)地域性を意識しすぎるといいものができないじゃないか。茨城だから「茨城らしさ」を大切に本をつくろうとか。「らしさ」は幻想なのだ。そんな意識をしなくても、地に足ついて、その場所で呼吸していて生きて仕事をしていれば、自然に地域性をまとった本になる。マスに向けたものをつくろうとするから、「らしさ」みたいな幻想にはまってつまらなくなるのであって、自分の身近にいる親愛なるひとのことを考えて、そして他ならぬ自分自身が面白いと思えるものをつくる。

 たぶん本屋もそう。先日、出張で訪れたある街の新しい大型書店に立ち寄った。その書店チェーンのことはけっこう好きなのだけど、その店の俗悪さに吐き気を催して、三秒で出てきた。あれはあれでいい、と言える余裕すらない。マスという幻想に媚びて、明らかにひとりひとりのお客さんを相手にしていなかった。

 当日の話のなかで印象的だったのは、マヤルカ古書店のなかむらさんから聞いた、大家さんの話だった。現在は京都市左京区一乗寺にあるお店と、以前の上京区の西陣にあったお店は、ふたつとも同じ大家さんだという。まだ彼女が町家古本はんのきのスタッフであったときに、独立して古書店を開きたいという思いを知った今の大家さんが物件をあてがったのが西陣のお店である。いまの一乗寺のお店も、もっと売上がほしいと思っていたころに、やっぱり路面店がいいだろうと大家さんからあてがわれたのだという。大家さんにとってそこから得られる収入といえば家賃だけだし、もっと稼ごうと思えば商売効率のいい業種を誘致するのがいいにちがいない。京都で店をはじめるには、大家さんとの出会いが重要だというが、これこそが文化なのだと思う。

まだオープンしたてだった一乗寺のマヤルカ古書店前で、店主のなかむらさあきこさんと、装丁家の矢萩多聞さんと。(2017.11.16)

 なかむらさんの話でもうひとつ面白いなぁと思ったのは、お店の古書の品揃えは100%買取で構成されていることについてだった。組合に入っていないので、「じぶんの」品揃えに合わないと思った本も基本的には在庫する。「古書についてはじぶんの選書でなくていいと思うんです」。それはつまり、(とうぜん遠方からの買取もあるけど)ローカル・カルチャーをそのままお店が受け入れるということ。一乗寺といえば恵文社であるし、大学街であるから文化度は高い。だから、自然といい本が集まる。もちろん、買取だけで品揃えをしても、BOOKOFFみたいな棚になる地域もあるだろう。そういう場合は、古書組合に入って市場で仕入れをして、地域の文化を担うような「じぶん」の品揃えもいいと思う。

 長くなったが、今回のイベントを受けて考えていることはふたつ。「水戸・インディペンデント・ブックマーケット」みたいな、本のイベントを企画したい。「インディペンデント」な本屋や出版社を全国各地から呼ぶ。だれかの真似事であるが、それでもいいじゃないか。もうひとつは、将来的に水戸で(も)本づくりをすること。昨日来てくれた皆さんから受け取った思いとは、そういうことだと思った。

 最後に、この座談会「地方で、本を編む、つくる、届ける。/装丁家、古書店主、編集者に聞く、地方で本を仕事にするということ。」を直前にもかかわらず既存の企画にねじ込んで開催してくれた担当の森山純子さん、佐藤マイティさん、水戸芸術館のスタッフのみなさま、地元への帰省ついでとはいえ参加を快諾してくれたマヤルカ古書店のなかむらさん、装丁家であり噺家の矢萩多聞さん、そして、当日私たちの話を熱心に聞いてくださった参加者のみなさんにお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

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