2020年をふりかえる

流されて 流されて どこへ行くやら

 ボ・ガンボスの名曲「夢の中」が年末のあいだ、ずっとこだましている。振り返ると、抗わず、積極的に流された2020年だった。

 つくった本は、『バウルを探して〈完全版〉』と『鬼は逃げる』の二冊。『バウルを探して〈完全版〉』は川内有緒さんによる、新田次郎文学賞を受賞したノンフィクション。単行本と文庫と、幻冬舎から二回も出版されたものを、中川彰さんが残した写真を入れて、完全版として出版した。『鬼は逃げる』は安曇野に住むウチダゴウさんが〈してきなしごと〉を興してから10年のあいだに発表した作品を朗読会形式でまとめた自選詩集。いずれも無から生まれたものではない(そもそも無から生まれる本などまったくないのだが)。流れの中で、いろいろな縁が絡まり合って、幸運にも、三輪舎が出版の役割を担ったにすぎない。もちろん、刊行にあたっては全力を尽くした。これ以上ないと思える本に仕上がった。流されていることには変わらないが、潮目を読んで、適切な方向へ舳先を変えることができたように思う。

 本屋・生活綴方が、2月の中旬にオープンした。2019年に参加した、まちの本屋リノベーションプロジェクトでのしごとである。年末から出版社に注文していた本が、1月末からぞくぞくと本が届いて、千冊を超えた。2月15日のオープン直前に一気に箱から出して、ひとまず棚に並べた。棚割りを考えず、思いつきで分類しているうち、たらたらと涙が出てきた。仕入れにいろいろな制限があったのは言い訳で、知識とスキルが不足していて、本屋を名乗るには恥ずかしい棚だった。棚が悪いと、ひとつひとつの本が、さも自信なさげに映る。涙が出たのは、そんな様子がありあり見えてしまったからだった。いつか自分でやろうと思っていたのに、実力が伴っていないうちに流されて、いま、本屋をやることになった。その運命を呪いたい気持ちもあった。友人に作業を手伝ってもらったり、様子を見に来てくれるひともいて、なんとか落ち着いたが、心の中で、定期的に泣いた。胸の奥にこびりついた、この鬱々とした感情を、いつか本当に自分で本屋を開くときまで、一生忘れないようにしようと思った。

働いて 働いて 汗にうもれて
まちがえて まちがえて 手も足も 出せなくて
淋しいよって 泣いてても
何ももとへは もう もどらない

 こけら落としは、イラストレーターの佐々木未来さんによる「日めくりと私」。過去4年間1500日分の日めくりカレンダーを、本屋の壁一面に展示した。日々はただ過ぎているのではなく、それぞれの色彩と形をともなって、それぞれのひとの中に、固有の時間として流れている。そうして言葉にしてしまえば抽象化されて陳腐になってしまうが、そういうものではない。この展示でのできごとは、その後、川面に霧がかかってしまった時期においても、煌々と光るみちしるべになった。

 その後もきびしい状況はつづいたが、積み重ねて、展示数は11回を数えた。横浜在住のヴィジュアルアーティスト、ハーネ・マリーさんの個展「86° 90° 96°」、モノ・ホーミーさんの図案展、安野光雅さんの絵本パネル展、木村セツさんのちぎり絵展、小林大悟さんと佐藤yuupopicさんの「待てど暮らせど、サーカスはこない」展、「もうひとつの〈バウルを探して〉」展、妙蓮寺見つけた写真展、12人によるリソグラフ・カレンダー展、久常未智さんの「いちまいの詩」展、そして、締めくくりは安達茉莉子さんの『消えそうな光を抱えて歩き続ける人へ』原画展。

 開業当初は、オーナーの石堂さんのほか、デザイナーの伊従さん、会社をやめたばかりの齋藤さん、ウェブ担当者の野田さん、小説家のUNIさんら、わずか数名でなんとか切り盛りしていた。まともに運営するにはスタッフが足りなくて、藁にもすがる思いで声をかけたところ、さらに何人かが協力してくれた。誰もが有志であり、本業がある。お店を支える仲間たちは、先行きがまだ見えない時期に、お店のことを好きになってくれて集まってくれた。いまや30人を超える仲間たちが店を支えてくれている。

 彼らのなかには、自発的にコーナーをつくったり、おすすめコメントPOPをつけてくれるスタッフもいる。盛岡在住の歌人くどうれいんさんの『わたしを空腹にしないほうがいい』に、いつの間にかコメントPOPがつけられていた。そのクオリティをみて、驚いた。これを書いたひとに自分の仕事を引き継ぎたいと思った。そのPOPは、現役の書店員で、HMV&BOOKS SHIBUYAで働く鈴木雅代さんによるものだった。石堂書店が番頭を必要としていたこと、お店を引き継いでくれるひとを探していたこと、そして本人がこの道に希望を見出してくれたこと。三者のベクトルがバランス良く一致していたので、あとは財務のことだけを心配すればよかった。石堂書店の社員として、12月に、お迎えすることができた。

欲しいものはいつでも 遠い雲の上
明日もどこか 祭りを探して
この世の向こうへ 連れていっておくれ

 本屋部門だけでなく、夏に導入したリソグラフを使って、この店オリジナルの雑誌『点綴』が生まれた。編集はハタチそこそこのふたり。ぼくは執筆したのと、製作をサポートした。面白いひとが集まる場所というのは、何かが生まれる場所である。このテーゼをひっくり返して、何かが生まれる場所には面白い人が集まる、と想定した。リソグラフを使って本や雑誌、ZINEをつくりたいと思うひとが自由に使えるように、会員制のスタジオをつくった。

夢の中 雲の上
夢の中 雲の上
遠くまで

 不格好なかたちではじまった本屋は引き継がれたばかりで、いまだ不格好のままだが、今後はもっとよくなる。

 でも、自分のしごとは、これでおしまい。2021年は脇目を振らず、本をつくる。絵本が3つ、読みものが2つ、他にも準備しているものがある。そのために環境も変える。

 一年間、ありがとうございました。来年もよろしくおねがいします。