昨年に引き続き今年もまたぎりぎりになってしまいましたが、新刊を刊行いたします。たいへんお待たせいたしました。末沢寧史さん、小林豊さんと一緒につくった『海峡のまちのハリル』を12月下旬に発売いたします。早いところでは、12月21日から店頭に並びはじめる予定です。小社の「通信販売」でもご購入いただけます。

- 価格 2,700円+税
- ジャンル 絵本・アートブック
- ISBN 9784990811679
- Cコード C8793
- 判型 A4変型判(縦206mm 横304mm 厚さ11mm )
- 頁数・製本 58ページ 上製
- 初版年月日 2021年12月21日
単色で描くイスタンブル
今回の小林さんの本は、これまでの色鮮やかな作品と違って、色味を抑えたものになっています。私がこの企画を引き継いで(当初は別の出版社に持ち込まれていたものでした)、ラフ画を最初に見たとき、このえんぴつの線を残した本にしたいと思いました。
そこで、小林さんに会って最初の日に、「今回の絵本は、色をつけるのをやめませんか」と提案しました。今から思えば冷や汗モノですが、緊張のあまり、出過ぎたことをつい言ってしまったのです。すると、小林さんはこう言いました。
「おれもそう思っていたんだ。いつもえんぴつで描いた時点の原画が、いちばん気に入っている」
後日、出来上がった原画を見ると、えんぴつで描かれた線にうえにセピアを載せた、味わいの作品が出来上がっていました。20世紀初頭のイスタンブルのまちかどの様子が立体的に浮かび上がる、とても美しい作品でした。
えんぴつの線を活かす印刷
次は、この原画を印刷でどう表現するか、とても難しい問題でした。というのも、これをそのままCMYKの4色で印刷してしまったら、のっぺりしてしまって、原画の良さが失われてしまうからです。
そこで懇意にしている長野の藤原印刷に相談を持ちかけました。藤原印刷さんは『本を贈る』『ロンドン・ジャングルブック』『鬼は逃げる』を一緒につくっています。担当営業の藤原章次さんと、プリンティングディレクターの花岡秀明さんに、「原画と印刷は別物だから、印刷所は原画をまた別の作品としてつくってくれたらうれしい」という小林さんからの言伝を伝えると、この企画に前のめりになってくれたようでした。打ち合わせの結果、CMYKの4色で印刷する代わりに、銀を含む特色4色で印刷することを提案してくれました。
えんぴつで描かれた線は、単なる黒ではなく、光の当たり方によって微妙な反射があります。銀インキを加えることで、えんぴつ独特の光の反射と原画に備わっていた立体感を、印刷で実現することができました。




「海峡のまちから届いた小包」のような造本
この本の装丁は、三輪舎が出版してきたほとんどの本を一緒につくってきた矢萩多聞さんに依頼しました。彼自身も絵描きであり、“職業装丁家”ではあまり思いつかなそうなユニークな提案が魅力です。
また、今回の本造りは製本会社の松岳社さんにも加わってもらいました。私たち版元は、どうしても理念や抽象的な考えを、物体として結実させたいと思いがちです。でも、具体的な物体としての本をいちばん知っているのは製本所です。松岳社さんは名だたる名著をつくってきた老舗で、ものとしての本を知り尽くしています。形を持たないアイディアの代わりに、松岳社さんはたくさんの束見本をつくってくれました。
その結果、「海峡のまちから届いた小包」のような造本にしようという話になりました。遠い国から運ばれてくる小包は、茶のクラフト紙に包まれており、そこには切手のほか、通関などの過程でいろいろなシールが貼られます。また、消印や検印も押されています。一冊の本を小包に見立てて、自由にシールを貼ったり印を押したら面白いんじゃないか。あまりに突飛なアイディアは、あとでたいへんな作業を発生させることになります。
結果、あえてクオリティの低い印刷でつくったシールを背を回り込む形で貼って、あたオスマン帝国時代の切手を模した切手シールを貼り、その上から消印を押しました。これらの作業は製本会社に頼まず、三輪舎がまちの本屋・石堂書店と一緒につくった「本屋・生活綴方」の仲間たちに声をかけて、ひとつずつ手作業でおこないました。







校了を迎えるまでの道のりについては、末沢さん自身が書かれた「ゲラを待つ日々」が詳しいです。ここからは、印刷がはじまってからの道のりを写真でご紹介したいと思います。

ご注文については、弊社直接取引(買切り・65%・即請求30日以内払い・送料弊社負担)、またはトランスビュー、子どもの文化普及協会にて承ります。
以上、出来上がりまでを紹介しました。ここには書きませんでしたが、たいへん難産を強いられた本づくりでした。
みなさんの手元に届くまで、もうしばらくお待ちください。
中岡