2020年の春、コロナ禍の最初の嵐が吹き荒れた頃に公開されたドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』。ポレポレ東中野を皮切りに全国各地で上映され、喝采を浴びました。この作品を監督した佐々木美佳さんによる同名のノンフィクション・エッセイ『タゴール・ソングス』を2022年2月下旬に刊行します。
とっつきにくいタゴール
「タゴール」と言われて、知らないひとも多いと思いますが、アジア人初のノーベル賞受賞者なので名前ぐらいは知っているひとも結構いるです。本を開いたりして結構知ってても、名前を聞いただけでかえって拒否反応を起こすひともいるんじゃないでしょうか。ぼくもそのひとりでした。タゴール?あぁ、神様みたいな風貌のインド人で、スピリチュアルな詩を書くひとだね。そういう印象をもっていました。
その印象はたしかに事実で、代表作である詩集『ギタンジャリ』を開けば、「御身(おんみ)は…」みたいな宗教的または古風な言葉が出てくるわけです。ヒンドゥーの神々が出てくるインド特有の混沌劇のほうが身近なものに感じられるぐらい、崇高すぎる世界にくらくらしてしまいます。
コロナ禍で受け取ったタゴールのことば
でも、そういうタゴールの一面をひっくり返してくれたのが映画『タゴール・ソングス』でした。そもそも「タゴール・ソング」とはタゴールが作詞・作曲を手掛けた歌のことです。現地では「タゴール・ソング」というジャンルが確立していて、百年間ずっと現役で歌われ、愛されています。歌謡曲のようなものでもあるし、フォークソングとして歌われていたりもします。メロディもいいのですが、詩人だけあって詩がすごくいいんです。愛や自然を歌った詩も胸を打つものが多いですが、作品のなかでとくに印象に残るのは、人間の尊厳や生そのものを歌った歌です。
もしきみの呼び声にだれも答えなくても ひとりで進め
タゴール「ひとりで進め」佐々木美佳訳
ひとりで進め ひとりで進め
もしだれもが口を閉ざすのなら
みなが顔を背けて 恐れるのなら
それでもきみは心開いて
本当の言葉を ひとりで語れ
映画の中では、このレベルの、魂そのもののような歌ががんがん鳴り響きます。今回佐々木美佳さんに書いてもらった『タゴール・ソングス』は、映画に感動したぼくが、勢いそのままに佐々木さんに「タゴールの本をつくりましょう!」って声をかけたのが始まりです。でも、コロナ禍で先行きが見えなくて不安だった時期に、この映画を観てタゴールとその歌に感化されたひとはぼくだけではないと思います。
映画は今回の本の出版をきっかけに、全国各地で再上映される予定です。ソフト化はされていませんので、ぜひこの機会に銀幕でご覧になってください。
書籍『タゴール・ソングス』について
書籍『タゴール・ソングス』映画『タゴール・ソングス』の撮影の旅路で出会った3人のタゴール・ソングの“歌い手”をめぐるノンフィクションです。(映画をそのまま読み物にした)ノベライズのようなものではなく、(メイン本に対する)副読本ともちょっと違います。映画にはならなかった、“もうひとつの”『タゴール・ソングス』です。主な登場人物はだいたい同じで、コルカタの今どきの女の子だけどタゴール・ソングを聴いて育ったオノンナさん、ストリート・チルドレンだったことのある高校生でフォークギターで歌うナイームくん、そして所構わず歌をうたうタゴール・ソングの歌手であり先生のオミテーシュさん、この3人。映画で歌われたタゴール・ソングはすべて収録しているので、言葉が必要になったときに開いてほしいなと思います。
装丁はおなじみ矢萩多聞さん。今回はいつもと違った感じの、華やかな装丁にしたててくれました。校正もおなじみ牟田都子さん。いつもながら安心感のある仕事をしてくだいました。印刷は三輪舎として初めてモリモト印刷さん。製本は『本を贈る』でおなじみ、加藤製本さん。
発売は2月末。どうぞお楽しみに。
書誌情報

- 価格 1,800円+税
- ISBN 9784990811693 C0095
- 判型 B6変型判
(縦179mm 横114mm 厚さ10mm) - ページ数 144ページ 仮フランス装
- 発売日 2022年2月28日(予定)
- 校正 牟田都子
- 装丁 矢萩多聞
- 印刷:モリモト印刷/製本:加藤製本
作家について
佐々木 美佳
映像作家、文筆家。1993年、福井県生まれ。東京外国語大学言語文化学部ヒンディー語学科卒業。2020年、ベンガル人のあいだで愛されている、タゴールが作詞・作曲した歌〈タゴール・ソング〉を探しにいくドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』で監督デビュー。2022年にはダッカ国際映画祭に出品。次回作は、日本に住む南アジア出身者がつくるカレーを題材にした長編映画と、タゴールとゆかりのある原三渓と三渓園をテーマにした短編『三渓の影(仮)』を準備中。